【矯正治療の一つである床矯正とは?】

乳歯の時はキレイな歯並びだったのに、永久歯に生え替わるとガタガタになってきていませんか?そのようなお子さんの歯並びが気になり、歯列矯正をお考えの方も多いと思います。矯正にはいくつかの方法がありますが、「床矯正(しょうきょうせい)」という方法をご存知でしょうか?

これは歯を抜くことなく「顎を広げて」歯を並べる治療法です。一般の矯正治療においては歯並びの具合によっては矯正のためのスペースを確保するために永久歯を抜歯する必要があります。お子さんの大切な歯を失うことなく矯正治療が可能という点は、選択肢の一つになるのではないでしょうか?

【床矯正の具体的な手順】

では具体的にどのような処置を行うのか見ていきましょう。床矯正治療には専用の器具(マウスピースにネジの付いた装置)を用います。装置は、入れ歯によく似た装置で、幼児でも簡単に取り扱いができます。顎を拡げる装置、歯を押し出す装置といくつかの装置を組み合わせて治療します。

マウスピースに付いたネジを調整することにより徐々に顎を広げます。これによりスペースが生まれ、歯を正しい位置に移動させて歯列を整えるという流れになります。

取り付けた装置は外せないということはなく、簡単に取り外しが可能です。様々な日常生活において支障が出るような制約が生まれないことは患者様にとって大きなメリットがあります。1日に14時間以上装着していれば治療は可能であり、装着している時間が長ければ長いほど、治療に必要なトータル日数は短くなります。

【床矯正のメリット・デメリット】

床矯正はワイヤー等を用いた一般的に認識されている従来の治療方法とは異なり、容易に取り外し可能な装置を使用します。
皆さんにとって聞き馴染みのない治療方法や、自分の周りで同じ治療を受けた人がいないと、最初はいろいろ不安だと思います。メリットとデメリットについてここから解説しますので、判断材料の一つにしてください。

〇床矯正のメリット

それではまず床矯正の様々なメリットを見ていきましょう。

・器具を取り外して歯磨きができる
床矯正の一つ目のメリットは、器具を自分で簡単に取り外しができるため、いつも通りのお口の状態で歯磨きができるのです。ワイヤーなどを用いる矯正の場合は自分で取り外すことができません。そのため金具の部分に磨き残しによる歯垢が溜まりやすく、その部分が虫歯になってしまうというケースも見られます。床矯正はこのリスクを低減することができる治療方法としてのメリットがあります。

・様々な生活シーンに対応できる
前述の通り、器具を自分で取り外しができることのメリットは他にもあります。大切な思い出の場面での記念撮影や、発表会といった場においては、器具を取り外して参加するといったことも可能になります。激しい運動を伴うスポーツを行う場合も、口腔内の安全面を考慮して取り外して参加することも可能です。取り外す際は、両手で丁寧に装置をはずしましょう。片手で無理に外すと装置をとめているバネに余計な負荷がかかり金属疲労で折れてしまいます。バネがゆるくなり装置がはずれやすくなったら、バネを調整しますので、担当医に相談しましょう。

・好きなものを食べられる
従来の器具を固定する矯正方法の場合、噛む時に歯に負荷のかかる固い食べ物を避ける必要があります。自由に好きなメニューをチョイスできないという側面がありますが、一方で床矯正はそうしたケースで器具を外せるので、メニュー選択における制限がありません。食生活において制約がないことは大きいのではないでしょうか?

・体調が悪ければ外すことができる。
病気や体調が悪い時は無理せずに装置をはずしましょう。長期間、装置をはずしていた場合は適合しなくなります。その場合は適合するまで装置のネジを巻き戻します。この点も床矯正のメリットです。

〇床矯正のデメリット

様々な利点がある床矯正ですが、その一方でデメリットも存在します。双方を考慮した上で治療方法の判断に役立ててください。

・歯の状態が後戻りする可能性
矯正治療後に装置を取り外すと、後戻りする可能性があります。成長に伴うお顔の筋肉の発達や生活習慣の変化に伴って、歯列の状態が変化する可能性があります。また前述の通り、簡単に取り外しができることにより、装着している時間が短くなれば、その分だけ治療に要する期間が長くなるケースもあります。また、装置をはずしていると「後戻り」をして、装置がきつく感じる場合があります。その場合は器具の調整が必要です。
床矯正治療は、1日14時間以上は装着している状態であることが求められます。短い時間の装着においては、正しい効果が得られずに、歯を抜く治療方法などに方針を変更せざるを得ないでしょう。

・一般的な治療と比較して時間がかかる
一般的なワイヤー矯正の平均的治療期間は成人の場合は2年ほどと言われています。
一方で床矯正治療は6歳ごろから治療を始め、永久歯が生えそろう14歳ごろまでは定期的に経過を見る必要があります。年齢が若くなると、歯の動きにかかる時間が短くなるため、治療期間は短くなる傾向が見られます。

・歯ぎしりが原因の破損リスク
歯ぎしりによって器具に大きな圧迫がかかり、破損するケースが見られます。
矯正のためには、矯正装置を所定の時間だけ装着する必要がありますが、歯ぎしりについて心配なのであれば、担当医にあらかじめ相談しておくことをおすすめします。

・治療できる範囲の限界
床矯正ができるケースとしては、顎が狭い場合に顎を広げることと、歯を押したり引っ張ったりすることです。歯の軸がずれている場合や引っかかって動きにくくなっている場合など、床矯正のみでは治らない場合があることも事実です。その際には一部の歯のみにブラケットをつけて矯正をしていきます。

【床矯正への当院の方針】

当院の床矯正における治療方針は、「保存的矯正治療」を基本スタンスとしています。
歯と顎の大きさが不適格で、未発育な顎を床矯正装置により適切に拡大し、
歯を移動することによって歯列の悩みを解決します。

院長:中谷 寛之

元の歯列の状態によって、一度に多くの歯をそれぞれのあるべき方向に移動するケースの場合は、形状記憶合金のワイヤーで治療をおこないます。
それぞれの治療法のメリットを熟慮した上で、患者様と共に治療方針を決定していきます。

矯正治療を必要とする患者さんは、顔を構成している上顎骨、下顎骨が未発育です。
歯並びの問題は、歯だけではなく、顔全体の構成によって大きく左右します。
単に歯の治療を行うのではなく、患者さんの笑顔を生み出すことが私たちの役割と考えています。

【床矯正の治療開始のタイミング】

永久歯の交換は最初に前歯から始まります。
理想的にはこのタイミング6~7歳くらいで床矯正治療を始めると、治療の対象が前歯だけですので、9~10歳くらいには終了します。
その後は歯の交換がスムーズに行われているか、経過観察していきます。
もちろん、それ以降で治療を始めても構いませんが、治療の対象が全ての歯になりますので、複雑になる場合があります。

治療の目的は、歯が並べばいいのではありませんし、顎と歯だけの問題だけではありません。
一生の顔の形に関わる大切な問題です。
良い顔に発育するための正しく咬む刺激が必要なのです。

お口の機能が正常に働いていない場合は、床矯正治療と同時に機能を正しくする為の練習が必要不可欠となります。
様子を見ていないで早期に治療を開始しましょう。

【ネジはいつ巻くのですか?】

主に使用するものは、平行に拡がるタイプと扇状に拡がる装置です。
平行に拡がるタイプの装置は、ネジを90°回して0.2mm、
扇状に拡がる装置のタイプは、ネジを90°回して0.8mm拡大します。
歯を前方、後方に移動する場合は平行に拡がるタイプに準じます。
拡大は、一週間で45°を2回巻くことを基本としています。
ただし、装置が上顎もしくは下顎のどちらかしか装着しない場合は、1週間に45°を1回になりますので、注意が必要です。歯並びや歯の交換によってスクリューを回す回数や量が違いますので、担当医の指示に従うようにして下さい。

治療の効果を最大限にするためには、装置を長時間装着しておくこと、定期的にスクリューを回すことです。
装着していてもスクリューを回さなければ、拡大しませんので、結果としていつまでたっても治療は終了しないことにつながります。

【装置の手入れ方法は?】

口の中は、様々な菌が存在します。
口腔環境によっては、バイ菌が繁殖してしまい、清潔とはいえない環境です。
床装置も、当然歯と同様に汚れや菌が付着します。そのまま放置すると、むし歯や歯周病になります。装置は「入れ歯」と同じ材質です。
市販の義歯洗浄剤を使用したり、ブラッシングの時に装置を歯ブラシで清掃しましょう。

【咬合に問題がある場合は、咀嚼訓練をしましょう】

子どもは成長します。特に11才から2度目の成長期に入ります。
成長期での咀嚼訓練が効果的です。問題なのはいつ成長が止まるかです。
子どもの成長の時期を検査しましょう。
親指の2番目の関節の内側に種子骨とよばれる小さな骨があります。
この骨にカルシウムが集まって〔加骨〕、レントゲンで確認できる時期の一年後が発育のピークです。この骨が出現したら、よく食べてよく運動をして睡眠を十分にとりましょう。
からだの基礎を作る時期です。

【不正歯列の様々な種類】

① 位置異常
歯の位置がねじれている、倒れているなど、正しい場所にまっすぐ生えない状態です。

② 交叉咬合
前歯もしくは奥歯のかみ合わせ一部分が逆転している状態、または完全にすれ違った状態です。顎のズレが生じるため、見た目だけでなく、アゴの関節に悪影響を及ぼします。

③ 叢生
歯の大きさと顎の大きさが適格しないことにより、歯が並びきらず何箇所かで重なってしまう状態です。状態によっては抜歯が必要な場合もあります。

④ 反対咬合
上下の前歯が反対になっているかみ合わせを言います。上の前歯が内側に傾いているか、上あごが小さく下顎が大きく、より下顎が前の位置にある状態です。

⑤ 下顎の後退
出っ歯ではなく下顎がさがっている状態です。

⑥ 過蓋咬合
奥歯をかみしめた状態で上の前歯が下の前歯を過剰に覆いかぶさっている状態です。
現在、低年齢から非常に多い症例です。歯並びだけではなく食事、発音、生活習慣に問題がみられる状態です。

⑦ 前突
前歯が飛び出して出っ歯といわれる歯並びです。見た目に上の歯が前につき出ている噛み合わせを上顎前突と言います。 顎の骨に問題がある場合と、歯だけ前に出ている場合があります。

⑧ 正中離開
上の中央の前歯2本が開いている状態です。

⑨ 開咬
前歯部分がかみ合わさらない状態を言います。稀に奥歯でも起こります。
前歯に上下方向の隙間ができる不正咬合のことで、奥歯でしっかり噛んだ際にも上下の前歯が噛み合わない症状を指します。「オープンバイト」とも呼ばれ、歯と歯の間が空いているため、力を入れて噛んでも上手く食べ物を噛み切ることができない状態です。

代表的な不正歯列はこの通りです。
特にお子様の歯列に関しては、親御さんが日頃からお口の状態を確認し、お子様にとって違和感のない状態かどうかをしっかりとケアしてあげる必要があります。

床矯正はその悩みを解決するための有効な手段の一つです。
お子様のお口の悩みと、一度向き合ってみてはいかがでしょうか?

【治療費】

※自費診療になります。
・床矯正装置(スクリュー付き) 1装置当たり:66,000円(税込)
・床矯正装置 1装置当たり:55,000円(税込)

治療終了までの総額は、お子様のお口の状態によって変わりますので、ご興味のある方は、お気軽にご相談ください。